VRChatが出てくる小説を読んだ話。

久しく小説を読んでいなかったのでたまにはと思い、『プロジェクトぴあの』というSF小説を読みました。アキバアイドルの天才的な女の子が宇宙へ行くために奮闘するお話です。作中、MMDや技術部を始めとするニコ動文化やAR技術に関する描写が多くあり、それが妙なリアルさを持っていました。奇想天外な方向にお話が進み、わくわくして、改めて小説は面白いなあと思わせてくれる作品でした。

プロジェクトぴあの

プロジェクトぴあの

で、興奮冷めやらぬ状態だったので、積ん読していた次の小説もその勢いで読んでしまいました。その小説のタイトルは『仮想美少女シンギュラリティ』。分量はそれほど多くないので1時間もあれば読めてしまいます。

ブレイン・マシン・インターフェースの研究をしている冴えない研究者である主人公がある日の深夜、自分の意識が無い間にVTuber「ねむ」として活動を始めていることを知ります。「なんでこんなことを始めたのだろう」と自分のことながら不思議に思いつつ2回目のYouTube生配信をしたら、これにハマってしまい、ネットでバズったことで配信の回数を重ねるごとに再生数と登録者数がうなぎのぼり。人気が急上昇して熱心なファンがつくようになります。そんなファンの一人がVRソーシャル『オルタナ』のアバターとして使える「ねむ」の3Dモデルを自分のために作ってくれます。それをきっかけにHMDを購入し、VRソーシャル『オルタナ』にinするのですが、そこではさらに不思議な事件が起きて…とお話が進んでいきます。

もちろん、ここで登場するオルタナがVRChatをモデルにしていることは論を俟たず、明らかです。オルタナでは、ポータルを介して「レイヤー」を移動できます。レイヤーというのはVRChatで言うところのワールドですね。レイヤーにはinviteやfriend+といった入れるひとを制限する機能もあります。

本作品で興味深いのは、主人公がアバターをまとった存在に成ることで現実存在の属性から解き放たれることに悦びを感じる描写があり、日々VRChatをプレイする僕も「たしかになあ」と思ってしまうところでした。

さよなら、醜い肉体よ。今までありがとう。もう君には用はない。私は、ついに肉体の軛(くびき)から解き放たれ、デジタル空間に足を踏み入れたのだ。

作者あとがきでも以下のようなことが書かれており、アバターを介したコミュニケーションの可能性を示唆しています。

全人類が「コスプレ」技術により生身の肉体を離れ、バーチャルキャラクターとして活動することで、個人のアイデンティティ・社会経済の在り方をアップデートし、差別や戦争のない、究極の理想世界を作れるのではないか?

なかなか壮大なことが書かれていますが、多かれ少なかれ、今までどうしようもなかった現実的身体を上書きできるテクノロジーが生まれたことによる社会的好影響はあると僕も思います。

VRChatterには面白い小説だと思います。逆にVRChatやVTuberに馴染みのないひとにはあまりイメージがつかない作品かもしれません。

今日はここまで。それでは。